Dinner Party(ディナー・パーティー)が 実写版MVを公開しました。


Freeze Tag (ft. Cordae, Phoelix & Snoop Dogg)



アニメ版




今回もしっかりメッセージを入れてきてますね。以下、解説していきます💪


【ここが見所🤓☝️】

◆ ロケ地... テラス・マーティンの地元、サウス・ロサンゼルスのクレンショー地区(the Crenshaw district)
 → 詳しくは Sleepless Nights ご参照

テラス「クレンショーはLAのアート・カルチャーの心臓部。クールで楽しい地域さ。良いヴァイブスにあふれていて、いい音楽がたくさん流れてる。俺はパームツリー🌴や綺麗な女性達にインスパイアされて育った。クレンショーには全てがある。薬草なんかもね(ウィードのこと🚬 カリフォルニア州では合法です)でも、その一方で殺される可能性もあるんだ。特に幼少期を過ごした80年代後半〜90年代のサウス・ロサンゼルスはひどかったね。ギャング抗争が始まり、自己嫌悪からくる愚かな犯罪が頻発したんだよ。」

「子供の頃、同じコミュニティーにはミュージシャン達が多く住んでいた。クラブが沢山あり、ミュージシャン達はそこで週に4, 5日演奏して、庭付きの家を買って家族を養い、良い暮らしをしていたんだ。皆の顔に笑顔があふれていたよ。でも、80年代になるとドラムマシーンやキーボードなんかの電子楽器が登場してライブシーンが一変した。ヒップホップやR&Bが人気になり、ライブ音楽(生演奏)が消えていったんだ。加えてケーブルTV(MTVなど)の登場で、皆が外に音楽を聴きに行かなくなった。クラブが減ったから、ミュージシャン達は食べていけなくなり、昼間は別の仕事をして、仕事が終わるとクラックやコカインを打って夜はクラブで演奏した。やがてドラッグの蔓延やギャング抗争でブラック・コミュニティーの人達の生活が崩壊していった。LA 暗黒の時代だったよ。ライブが干し上がって演奏する場所が無くなったんだ。アーティストにとってそれは拷問みたいなものだから、皆がドラッグに走ってしまった。」


* テラスの父親はジャズ・ドラマー、母親はシンガー

* 「テラス・マーティン、ケンドリック・ラマーらは、ヒップホップが全米を席巻してから少なくとも15年間はメインストリームから忘れ去らていたソウル、ファンク、ジャズなどのブラック・ミュージックを『To Pimp A Butterfly』で復活させた。演奏は多くがジャズ・ミュージシャンによるものだった。」(ケンドリック・ラマー評伝The Butterfly Effectより)」

* アフリカ系アメリカ人の自己嫌悪... 「長いこと差別され、二級市民として扱われてきた彼らの多くは、いい教育を受けられず、きちんとした仕事にも就けない状況で、自分たちの自己イメージが否定的なものになってしまっていた」(ピーター・バラカン著ロックの英詞を読む ー 世界を変える歌「"Respect Yourself" ステイプル・シンガーズ(1971年)」より引用)


VOTE(投票しよう)」と書かれたフーディーを着ているテラス・マーティン

アフリカ系の人達はもちろん白人至上主義者のトランプではなく、バイデン支持者が多数と思われます。ロバート・グラスパーも出演していますが、カリフォルニアの陽気でレイドバックした(リラックスした)雰囲気の中、若干浮いてますね😅  テキサス出身→東海岸のNY在住だから、よそ者感がぬぐえない💦 テラスとは10代の頃からの付き合いとの事。 *(後日追記)グラスパーは数年前にLAに拠点を移した模様


◆ コミュニティー/地元の仲間 = 家の外での家族

ブラック・コミュニティーについては、この理解がしっくりくるように思います。
ヒップホップでもHomeが語源の「ホーミー(Homie  同じバックグラウンドや生活経験を持つ仲間・友人)」というスラングがよく出てきますね。立場の弱いマイノリティーは結束しなければサバイブできない、という現実もあるのでしょう。*アメリカの全人口でアフリカ系が締める割合は約13%です。

テラスは 母親に16人の兄弟姉妹がいるため、子供の頃から多くの従兄弟に囲まれて育ったそう。今でも情報を得るのはニュース番組やネットからではなく、コミュニティーの仲間や親の家に集まる人々からだそうです。
また、音楽仲間とコラボレーションするのも、顔馴染みのファミリーと一緒にやる感覚とのこと。


◆ Cookout ... 家族や友人と屋外バーベキューをするのはブラック・コミュニティーの伝統情報源)。人種を問わず、アメリカ人はよくBBQをします。


◆ Freeze Tag ... かたち鬼◆地面に丸・三角・四角を書いて遊ぶ鬼ごっこ。捕まりそうになると身動きをとめて動かなくなる 

 子供の遊びが、警官による鬼ごっこ になる
 → Police brutality(警官による不当な暴力行為)を訴えている警官が犯人や不審者に対して言うのは "freeze!(動くな!)" 。最後のシーンでは子供の遊びに戻っています。
 

◆ カメラワーク... 前半部分は警官の目線だと思われますが、いかがでしょう。すれ違う人々が動きを止め、警戒して立ち去って行きます。

数年前にミネアポリスのアフリカ系住民が住む、ノース・ミネアポリス地区を訪れた時のことを思い出しました。自分が乗っていたUber車の前に巡回パトカーが走っていましたが🚔、フロントシートに座る白人男性2人の警官が、家のポーチで日向ぼっこするアフリカ系住民達をじっくり眺め回す様子は、まるで 獲物を狙うハンター。異様な光景でした。怖かった...

(注)あくまで私の印象です(映画の見過ぎでバイアス入ってるかも)。アフリカ系による犯罪が多いのも事実ですし、多くの警官は市民の安全を守るため、日々真面目に業務に取り組んでいると思われます。


【歌詞】 誤訳あればスミマン💦

[イントロ:コーデー]
When I'm down I call God
Who better to call?

Ulterior motives
I'm fed up wih y'all


ダウンしたら 神を呼ぶ
他に誰を呼べばいい?
本当の狙い
もうお前らにはうんざりだ 
 *警察のことを言っている

[フェリックス&コーデー]
They told me put my hands up behind my head
I think you got the wrong one
I'm sick and tired of runnin' (Runnin')
I've been searchin' where the love went (Love went)
I been lookin' for a dove

両手を頭の後ろに置け と奴らは言う
人違いだと思う
もう走るのはうんざりだ(走る)
愛はどこへ行ったのか ずっと探してる(愛はどこへ行った)
鳩を探してる

Then they told me if I move they gon' shoot me dead

But I think I'm 'bout to cut a rug (Cut a rug)
I been waitin' on the summer (Summer) 
Soul lookin' back and wonders (Wonders)
How we 'posed to get from under?
They told me put my hands up behind my head

動けば射殺する と奴らは言う
でも 俺は踊ろうとしてる(踊る)
待ちに待った夏だから(夏)
魂が過去を振り返り さまよう(さまよう)
どうやったら  この境遇から抜け出せるんだ
両手を頭の後ろに置け  と奴らは言う


[コーデー]
I was searchin' through my archives,
reminiscin' car rides

Thinkin' 'bout how far I had come since a small fry
Fortunately I lost ties with n***** that had crossed sides
Unforgiven', creates division like apartheid
Thinkin' 'bout my past life, my current one is all lies
Addicted to the fast life,
Porsches with the frog eyes

N***** ask me how I do it, boy,
I said It's all God

The funny thing about this life shit is that we all die
Hopin' for heaven
although we closer to hell

Dreams to get my brother out that cage and open his cell
Got that 2020 vision, shit, I wrote this in braille
And the peace is what I hope to entail, yeah

自分のアーカイブを検索してた
車に乗って出かけたことを  思い出しながら
雑魚から ここまで来たことに思いを馳せる
幸いにも  仲違いしたニガー達との縁は切れた
許されざる者  アパルトヘイトのような分断を生み出す
過去の人生を思うと  今の俺の人生は嘘まみれ
ファーストライフ中毒で
カエルの目をしたポルシェを乗り回す
どうやってそうなった?とニガーが尋ねる
神のおかげ と俺は答える
このクソみたいな人生で面白いのは  俺たちはみんな死ぬってことだ
地獄に近づいていても
天国を望みながら
俺のブラザーを檻から出して 独房を開ける夢
その2020年のビジョンがある、クソ、点字でこれを書いた
そして 平和こそが 俺の願いだ

[フェリックス]
They told me put my hands up behind my head
I think you got the wrong one (Wrong)
I'm sick and tired of runnin' (Runnin')
I've been searchin' where the love went (Love went)
I've been lookin' for a dove

両手を頭の後ろに置け と奴らは言う
人違いだと思う(人違い)
もう走るのはうんざりだ(走る)
愛はどこへ行ったのか ずっと探してる(愛はどこへ行った)
ずっと鳩を探してる

Then they told me if I move they gon' shoot me dead
But I think I'm 'bout to cut a rug (Cut a rug)
I been waitin' on the summer (Summer)
Soul lookin' back and wonders (Wonders)
How we posed to get from under?
They told me put my hands up behind my head

動けば射殺する と奴らは言う
でも 俺は踊ろうとしてる(踊る)
待ちに待った夏だから(夏)
魂が過去を振り返り さまよう(さまよう)
どうやったら  この境遇から抜け出せるんだ
両手を頭の後ろに置け  と奴らは言う

[コーデー]
When I'm down I call God
Who better to call?
Ulterior motives
I'm fed up with y'all (Fed up with y'all)
Ulterior motives

ダウンしたら 神を呼ぶ
他に誰を呼べばいい?
本当の狙い
もうお前らにはうんざりだ 
本当の狙い

[スヌープ・ドッグ]
Yessir
We're back inside the Dinner Party
Slow grooves to make you move
We gon' give you somethin' to satisfy your ears
That's right y'all
The Dinner Party
Let's go

イエッサー
ディナー・パーティーに戻って来ました
お客様の体を揺らす スローなグルーヴ
それでは  皆様の耳を満足して差し上げましょう
そうです
ディナーパーティーです
参りましょう....

  次の曲LUV U (feat. Snoop Dogg & Alex Isley)に続く


* ulterior motives... 本当の狙い、目的
* a dove... 鳩。平和の象徴
* cut a rug... (直訳)ラグマットを切る → 踊る *由来はネットで検索すると出てきます
* a small fry... 雑魚
* fast life ... スローライフの逆
* brother...ブラザー。アフリカ系同士で仲間を呼び合う時に使う表現


 ※ コーデーによるラップ部分は、韻を踏む言葉遊びの要素もあるので、大意をつかんでいただければ幸いです



【テラス・マーティンのインタビュー】


今世の中では様々なことが起きている。俺達は警察の標的だ。黒人男性が外出先から無事に車で帰宅できる確率は50%なんだ。

アーティストの責任

アーティストは時代を映す鏡と言える。本物のアーティストなら、こういう時代のこういう状況に反応するべきだ。誰もがつるんで楽しみたいのはわかる。俺もパーティーをしまくって散々楽しんだからね。でも、今 最もパワフルなボイスを持つのはエンターティナー、ラッパー、シンガー、ミュージシャン達だ。なら、なぜそのパワーを利用して、より良い社会にしようと思わないのか?自分が解決策の一部でないなら、その問題の一部になるということだ(問題の解決に向けて行動を起こさないなら、その問題に加担することになる、という意味だと思われます)。自分のことで精一杯なのはわかる。でも、家の外の社会で何が起きているのか注意を払って欲しい。気がつかないなら、意図的に問題を無視しているということだ。

俺はアーティストに対して "スーパー・ヒーロー"などと過大な期待を寄せてはいないが、それでも成功したアーティスト、特にブラック・アーティストには人々(our people)の声に応える責任があると思う。抗議デモに参加したり、通りで「投票しよう」と言う必要はない。他にもできることは沢山あるはずだ。愛という言葉を説いたり、このストレスのたまる時期に皆をリラックスさせたり...。俺の友達が3人撃たれ、インスタグラムにその様子がアップされた。一緒に育った二プシー・ハッスルが撃たれた様子もネットで見られる。こんなクレイジーな出来事を無視できるのか?そんなの自分勝手過ぎるだろう。

次世代への責任

アメリカには黒人、白人、ヒスパニック、黄色人種、あらゆる肌の色の子供が大勢いる。子供は未来を担う存在で、俺達が作る社会で育つことになるんだ。だから世の中のことに注意を払わないといけない。俺達は子供達の未来を考えて行動し、強くあらねばならないんだよ。
*テラスは男女5人の子供の父親です

前進し続けること

誰もが人生に何かしら問題を抱えている。俺は自分の音楽を通して、人々に「前進し続けること(Keep going)」を自覚して欲しいんだ。また、自分の人生に何が起きているのかも自覚して欲しい。
ステージで演奏すると多くの人に出会う。連帯感や団結、チャンスを掴むこと、勇気、恐れないことなどについてパワフルなメッセージを伝えることができるんだ。若い子達と接する時も、団結することについてメッセージを伝えるようにしているよ。互いをリスペクトすること、愛することが重要なんだ。


クレンショーの映像




 クレンショーは俺の愛の基盤だ。人生で大切なレッスンはここで学んだ。

「ブラック・ピープルを信頼している。俺に全てを教えてくれたから。 ジャズやジャズ仲間が大好きさ。ジャズをやることで安全でいられて、サックスを吹くことで殺されずに済んだ。」     

(補足)テラスのインスタより 
90年代にLAで育つのは大変だった。今でも時々大変だけどね。若い頃はほとんどの時間をクレンショーで過ごしたけど、この辺のことを知ってる人ならその意味がわかるだろう。
サックスが俺の人生を救ってくれた。ギャングの暴行で多くの仲間や友人が亡くなった...。11人中 9人が殺されたと言えるね。絶句。生存率低すぎる...


クレンショー中心部の映像

ホームレスや荒んだ店。これも現実



LAじゃないかも💦 → NYのビーコン・シアターでした。
ブラザーのサンダーキャット😸と固いハグ
 


<インタビューの引用元>
動画
California African American Museum, Kendrick Lamar伝記本出版記念ウェビナー
Inspired to Inspire with Terrace Martin
Terrace Martin Boiler Room New York Live Set


Podcast / YouTube

Brakfast with Vinnie! Episode 4 Supecial Guest Terrace Martin!
Apple Music, The Zane Lowe Interview July 17, 2020 Kamasi Washington and Terrace Martin

The Writer Is...  Episode 96 Terrace Martin (YouTube)
プロデューサーとしての視座の高さを感じさせるインタビュー
自身の生い立ち、コミュニティ、LAの音楽シーンからアーティストのクレジット・ギャラ問題、音楽産業まで語り尽くしており、大変興味深い内容です。テラスの人となりがわかり、ますますファンになりました。



        

出来事の一部を切り取って誇張する報道やフェイク・ニュースが溢れる今、音楽のメロディーや歌詞は、編集されることなく人々の耳に直接届くパワフルなツールでもありますね。事実、私も極東の日本にいながらメッセージをキャッチし、こうしてブログに書いているのですから。


テラスは高校からジャズバンドに所属して頭角を現しながらも、この時代に育った多くのアーティスト達のようにヒップホップにのめり込み、ラッパーをしていた時期もあるようです。
もっとも本人は「ブラック・アートの塊の、ブラック・アーティストにすぎない(I'm just a black artist that's full of black art.)」と自身を定義していますが。

都会で生き抜く知恵とスキルを持ったストリートスマートなプロデューサー/ソングライター/ミュージシャンの話はとてもリアルで説得力があり、面白い。自身でレーベルを運営しているからか、誰に遠慮することもなく歯に衣着せぬストレートな発言をするのに(F word連発のギャング言葉で)驚きますが、今世界中の人々が抗議活動をしている様子を見て、憎しみより愛を感じているそう。

サンダーキャット😸と同様にミュージシャンの両親を持ち、愛情に恵まれて育ったことは幸いでした。クラックが蔓延する地域で、数年間モーテル暮らしをするなど時に生活に困窮しながらも、両親は外の世界からテラスを守り、音楽の芽を伸ばしてくれたそうです。また、様々な人種のアーティストに囲まれて育ったので、成長過程で人種差別を経験することはなかったそう。アート・コミュニティーでは肌の色で人を見ないから、と。

まぁ、アフリカ系アメリカ人の中でもごく一握りの、成功した音楽エリートと言えますが...


自分は人種差別問題について学んでいる最中ですが、今にして思えば、アフリカ系アーティスト達は来日公演のステージで、MCや曲を通して自身のルーツや差別問題に触れ、メッセージを訴えていたんですよね。


ミネアポリスを旅した時に、アフリカ系の中高年達が一様に疲れて諦めきった表情をしていたこと、ミネソタ州知事も住むというセントポールの高台にある高級住宅街とミネアポリスのダウンタウン外れにあるノース・ミネアポリス地区のギャップが激しかったこと、ソマリアから移民したばかりというタクシードライバーの男性が話してくれたことなど、ああ、そういうことだったのか...と今更ながら気づく自分の無知さ加減を恥ずかしく思います。

R&B、ファンク、ヒップホップ、ジャズなどのブラック・ミュージック(あえて"ブラック"とここでは書きます)から沢山の喜びをもらっている身としては、人種差別問題に無関心ではいられません!自分にできることからやっていきたいと思います。


(ご参考まで)



映像がアップされていました👇
 → 削除されました
 
「アメリカの貧困層や黒人コミュニティでは身近な人が次々と収監されることが当たり前になっています。投獄はもはや人生の一部なのです。」
  
大量投獄
(mass incarceration)について説明しています。

しょっちゅう職務質問され、微罪でも刑務所へぶち込まれて、保釈金が払えない、または保護観察の厳しい条件を守れないことから再収監され、やがて刑務所暮らしから抜け出せなくなる...。警察から必死に逃げるはずですね。

ブラック・コミュニティーの結束が固いのは死活問題だからですよね。ちょっとした判断ミスがギャングや警官の暴力が蔓延る地域では命取りになるから。

* 余談ですが、プリンスも10代の頃はたびたび職務質問を受けていたようですね。慎重に行動していた理由が今なら理解できます。