夏の疲れがたまって寝つけない夜に、この曲はいかがでしょうか?
ずばり

 「Sleepless Nights」(眠れない夜々)


勝手にキャッチコピー

  強烈な警察ディスりソングPig Feet」 へのアンサー、それは愛


テラス・マーティンの新プロジェクト、グループ名 "Dinner Party(ディナー・パーティー(笑)" によるデビューアルバムからMVが公開されました。メンバーはテラス・マーティン、ロバート・グラスパー、カマシ・ワシントン、9thワンダーの4人。

一見、さらりと耳障りのいい、スムースなソウルに聴こえますが、そこは猛者4人。サウンド、映像共に、随所にこだわりを持って制作しています。

DP













Dinner Party - Sleepless Nights (feat. Phoelix)  

ヒーローズ 参上❣️



愛に溢れるハートウォーミングな作風で、何かこうホッとします。全てを受容する温かさがある。警官の不当な暴力行為に怒り狂って抗議した「Pig Feet」とは対照的ですね。

では、曲を紐解いて参りましょう♫


【クレジット】
Produced by Terrace Martin, Robert Glasper, Kamasi Washington & 9th Wonder メンバー4人 Mini Moog(ミニモーグ → 1970年に開発されたポータブル・シンセサイザー) - Terrace Martin Piano - Robert Glasper Tenor Saxophone - Kamasi Washington Maschine MK3, FL Studio 6 - 9th Wonder Vocals - Phoelix Guitar - Marlon Williams(スヌープ・ドッグやケンドリック・ラマーのアルバムに参加。2017年 テラス・マーティンの来日公演にも同行)


【サウンドについて】

Dinner Party🎉に招かれたかのような、アットホームなサウンド
  • 親しみやすいメロディーラインに、フェリックスのソフトな声が安らぎを与えてくれます
  • カマシ・ワシントンの黄昏れたテナー・サックス🎷が、奥行きを添えています

  • ロバート・グラスパーのピアノ🎹はいつもながら安定の出来。テラス・マーティンが弾くビンテージのシンセ音と相まって、レトロで温もりのあるサウンドになっています
  • 特筆すべきは、9thワンダーの手によるクールなビートでしょうか
自分の曲から再利用 ♻️ 👇 情報源

9th Wonder - Can't Breathe (feat. Smitty)  (2019年12月) 
この "I can't breathe" は恋愛における「息ができない」の意味で、ジョージ・フロイド事件の "I can't breathe." とは異なります。 狙ってる?



   ⇩
ビートを分解して、元ネタの曲👇 

Detroit Emeralds - You're Getting A Little Too Smart(1973年)



 +

ルイス・コール❣️

Louis Cole - More Love Less Hate(2018年8月)
ルイスの祈り「憎しみより愛を」  ドンピシャリ曲名!



9thワンダーのセンスの良さにうなる... タイトなビートに浮遊感のあるルイスの曲をミックス。さすがとしか言いようがない。(参照記事:サンプリングにおいて最も重要なのは元ネタへのリスペクト by DJ Premierリスペクト...あるよね?と思いたい

New!  テラス・マーティンの 2023年 来日最終公演で、「ヒップホップのビートだよ」とテラスが紹介してから、ドラマーにこのビートを実演させていました。サンプリングしたわけじゃないかも。

目を閉じて曲を聴くと、一つ一つの優しい音が揺らめきながらも調和し、手を繋いでダンスしてるみたい。まさにパーティー🎉

マティスの「ダンス」
Matis













【歌詞】意訳してます

 Cloudy days,
 Sleepless nights
 I lay awake tossing,
 wondering when we'll get it right
 We've beendown
 For so long
 Knowchange been on the way,
 ain'tworried no more

 曇り続きの日々
 眠れない夜々
 一体いつになったら 良くなるんだろう
 悶々としながら横たわる
 俺たちは これまでずっと
 がっかりしてきた
 でも 変化はすぐそこに
 もう心配はいらない

 Know we coming
 (Coming, coming, coming)
 Know we coming
 (Coming, coming, coming)
 
 俺たちは 近づいている

 Yeah, just keep going
 (Going, going, going)

 そう、前進するのみ
 
 Know we coming
 (Coming, coming, coming)

 俺たちは 近づいている


   * sleepless nights... 眠れない夜が続いてる
   * get it right... 物事を正す → 長年 不当に扱われてきた黒人への扱いを正す、解決する
   * change be on the way... 変化はもうすぐ。起こりつつある。
 サム・クックのA Change Is Gonna Come(1964年)参照。
 歌詞「ずいぶん長い時間がかかったけれど/これから必ず変化が起きるに違いない、きっと起こるはずだ 」 → 過去の人種差別の体験をふまえ「ようやくこの日がきて、これから何かが変わるに違いない」という希望に満ちた予感を歌っている(引用元
   * Know we coming ...ダブルミーニングかと思われます。
  歌詞では coming (to change)   俺たちは(変化へ)近づいている
  MVでは 「今行くぜ」とヒーロー達が目的地に向かっている

シンプルな単語を並べた分かりやすい歌詞で、どんな人にも届くようにしています。二番も同じ歌詞です。


【Music Videoについて】
今流行りのアニメーション・ビデオですが、アニメの動きが単純で、レトロ感満載の仕上がりになっています。サウンドにリンクしていますね。

以下、気になるシーンを挙げます🤓☝️

キーワードは  地元/コミュニティ愛💕
  • 宇宙船の目的地(Destination) 脚はスピーカー
    サウス・ロサンゼルス、クレンショー大通り(Crenshaw Blvd.)
     ⇩
    レイマート・パーク(Leimart Park)に着陸 
       →  LAのブラック・カルチャー発信地

(LA南の地図)
右は拡大地図


テラスとカマシは 全米屈指の犯罪多発地域 サウス・ロサンゼルス(旧サウス・セントラル・ロサンゼルス)イングルウッド出身。現在41歳のテラスは、クレンショーで自身のレーベル、Sounds of Crenshawを運営しています。
* 上記 右の地図では、ハイライトしてあるクレンショー地区を若干東側に行くとレイマート・パーク


テラスの最新インタビューによると、サウス・ロサンゼルスは80年代後半からギャング間の抗争が激化し、住民のドラッグ乱用やライフル銃所持(皆が銃を持っていたと)も伴い治安が悪化、戦闘地帯/war zoneに陥ったそう。
*不況に喘いでいた80年代後半〜90年代前半は最悪だったと思われます。現在は大幅に改善した模様


(LAの犯罪地図)2020. 9. 9 現在
ブルーが濃くなるほど、犯罪が多い


LAは中心部ダウンタウン(ビジネス街。夜は無人で危険)を起点にして南部は治安が悪くなります。ちなみに、北西に位置するハリウッドやサンフェルナンド・バレーはセレブが住む地域。

アメリカは"ブロック"ごとに雰囲気がガラリと変わります
「人種による住宅隔離(ゾーニング)」の名残りで棲み分けがはっきりしているので、アフリカ系(及びヒスパニック系)が住む貧困地域の犯罪率が高いのが一目でわかりますね。そして、隔離したアフリカ系コミュニティーを「割れ窓理論」を実行する名目で、日々警察が巡回して取り締まる...(情報源:Black Lives Matter の代表インタビュー番組)。
 *人種ごと、さらに階層(経済的地位)ごとにも棲み分けがはっきりしています


(ご参考)
LAのギャング抗争が描かれている映画

80年代後半
『カラーズ/天使の消えた街』  警察の視点で描かれた作品

90年代初頭
『ボーイズン・ザ・フッド』 こちらはギャングの視点


Hip Hopの歴史動画 Chapter 2
レーガン政権下の1981年を境に、政府が意図的に持ち込んだとされるクラック(コカインを固形化した安価なドラッグ)がLAのゲットーを中心に全米に蔓延 → レーガンがドラッグの厳罰化を命じると逮捕者続出 → 黒人コミュニティ崩壊


  • 電線にぶら下がっているスニーカー ... シューフティ(Shoefiti)と呼ぶそうです。なぜこんなことをするのか?色々な説があるようですが、昔見たNHKのドキュメンタリー番組では、ギャング同士の抗争で若くして亡くなったメンバー・巻き込まれた住人を追悼するためだと説明していました。ここに存在していた、と皆で忘れないようにするためだと。
命を落とした人のスニーカーを電線に投げてぶら下げる
Shoe










  • バスケットボールのゴール台に書かれた「Defund the Police→ BLMの要求項目の一つ。「警察から資金を取り上げる」という意味 → 警察システムを解体する狙い
  • Vision Theater... レイマート・パーク・プラザにある、地域のランドマーク
    1931年に建てられたアール・デコ調の映画館
  • コミュニティーの人達の前で演奏していると(背後にBlack Lives Matterの文字)、パトカーが現れる → ナンバープレートに "pigs"Pig Feetのpig。スラングで警察のこと)。テラスがぐっと顔をしかめる  が、暴力には訴えず、音楽のパワー✨でシールドを張り皆を守る。警察もこれには手が出せず退散。ヒーロー4人は無事役目を終え、宇宙へ帰って行きましたとさ。The End.

【Dinner Partyについて】

「ディナー・パーティーという名前は、プロジェクト全体の雰囲気を伝えるためのもの。これらのミュージシャンの出会いは、ずっと前にさかのぼる。マーティンはワシントンと同じ高校に通っていて、グラスパーとは90年代半ばにジャズバンド・キャンプで知り合った。このプロジェクトの発端は、マーティンがグラスパーのツアーに参加していた時からで、その後、ワシントンと9thワンダーが一緒になり、2019年後半にレコーディングを開始する前に数年間アルバムに取り組んでいた」引用元


   Welcome to the dinner party !! 🎉(テラスのコメント)


インスタより → 削除されました


Sending love and blessings to everyone. 
Call someone you haven't talked to in a while and just tell them you love them. 
a simple phone call can do much for a person. 
After you do that check out our new video "Sleepless Nights". 
Tap the link in my bio.  You are all invited to the @dinnerperty "SoundsOfCrenshaw

皆に 愛と恵みを。
しばらく話してない人がいたら電話して、ただ愛してると伝えてあげて。
たった一本の電話が、ある人にとっては助けになることもあるんだ。
それが終わったら、僕たちの新しいビデオ「Sleepless Nights」をチェックしてみて。
君たちは全員、Dinner Partyに招かれているよ。



-------------------------


この曲とMV にとても惹かれます。なぜだろう? 
おそらく

   があるから


今、世界は混乱状態だけど、皆に(特にブラック・ピープルに)安心感や希望を与えたい。自信を無くして怯えている人がいたら、愛を伝えたい。そんなメッセージを感じるから。そこにエゴはありません。

  互いに愛せよ。さなくば滅びあるのみ

という言葉を思い出しました。やはり、全ては 愛 に帰結するのですね。でも、そんなシンプルな"愛する"という普遍的な行為を実践するのがとても難しい...


前述したインタビューで、テラス自身こう語っています。

 人生って 他の人達を助けるってことだろう?
 自分の持てるもの全てを人に捧げるってことだろう?

 
 Life is about helping somebody else.
 Life is about giving your all.



ちなみに警察についてのコメントは

ブラック・コミュニティーでは、警察は警察ではない(=機能していない)。警察には税金を払いたくないね。ヤツら俺達を殺すつもりだから。医療や学校、ゴミ処理会社に税金を払うのはいいけど、警察!? お前らくたばれ! 奴らが愛が何たるかを理解し、互いに協力できるまで税金を払いたくはないよ。


BLM運動については

俺たちは愛をもって皆で団結し、立ち向かうべきなんだ。今回は多くの白人が黒人と一緒に抗議活動に参加している。これまでになかったことだ。それが国全体で起こっている。変わったんだよ。

ブルース・スプリングスティーンも同じようなことを言っていました。
(人種差別の本質を鋭く指摘しています)


先行第一弾で公開された「Freeze Tag」のMVには、メンバーで和気藹々とレコーディングしている様子が映っていて、実に楽しそう。以前観たテラスの来日公演もこんな感じだったなぁ。メンバーでまめにコミュニケーションを取り合い(テラスが頻繁にちょっかいを出し)、リラックスした雰囲気で演奏していた。そういえば、胸の前に両手でハートマーク LOVE🫶を作って歌ってたな🙄 


Dinner Party - Freeze Tag (feat. Phoelix)
「ミュージシャンにリスペクトがある奴としか一緒にやらない」
「カマシと同じバンドだぜ。イエーイ」
とはしゃいでいたテラス




アルバムタイトルは「Dinner Party」 まんま
バスキア風のビジュアルは、カマシの妹アマニ・ワシントンによるものです。
アルバムを通して心地よく、リラックスして聴ける曲ばかり♫ 暖かい毛布にくるまれているような安心感に、体のコリがほぐれそう...



(後日追加)
The Musical Influence of Jean-Michel Basquiat
(7:45頃から)テラス・マーティン「バスキアは俺のアルバム『Dinner Party』のカバーにインスピレーションを与えてくれた」




(ディスク・レビュー) 
ロッキングオン真夏のソウル・ジャム2020