ボブ・ディランに続き、ブルース・スプリングスティーンの素晴らしいインタビュー記事が配信されたので、ご紹介します。

やはりと言うか、ストリートのことを歌う詩人は、世の中のことを深く見つめていますね。自分が漠然と考えていたこと、疑問に思っていたことを、全て語ってくれたという感じ。グローバル化、中間層の没落による格差拡大、人種問題、分断、コミュニティー、そしてアメリカについて、いろいろ考えさせられます。


アトランティック誌(1857年創刊  アメリカの名門 月刊評論誌)
URL:  https://www.theatlantic.com/world


Bruce














(C) Keith Meyers/ New York Times

日本語版(抜粋記事)


<ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニスト 兼 作家デビッド・ブルックス氏によるインタビュー>

誤訳あったらすみません💦

暴動、怒り、希望、社会変化の瞬間である。このような時、ソングライターやミュージシャンは物事に言及し、人々が出来事を理解するのを助ける力を持っている。つまり、ケンドリック・ラマー、ジャネール・モネイ、トム・モレロ、ニーナ・シモン、マーヴィン・ゲイ、ボブ・ディラン、ブルース・スプリングスティーンのようなアーティスト達のことだ。

スプリングスティーンが警官による黒人男性の殺害事件を描いた力強い曲「American Skin (41 shots)」を書いてから20年が経った。そこで、私は今ブルースに彼の考えや音楽について聞いてみるのはいいアイデアかもしれないと思った。ここに6月9日に行われた我々の会話を少し編集した記録をお届けする(ブルースのプレイリストはSpotifyでご覧いただける)。* 電話インタビューと思われます


デビッド・ブルックス: 人々が通りで行進しています。あちこちで暴動が起きています。あなたはどう思いますか?今起きていることについて楽観的ですか、それとも悲観的ですか?

ブルース・スプリングスティーン:これから先のことはまだ誰にも本当にはわからないと思う。あまりにも多くの未知数の事柄が起きているからね。COVIDウイルスがどうなるかわからないし、Black Lives Matter運動がどうなるかもわからない。人種や警察活動について 、突き詰めると社会契約の汚点になっている経済的不平等について、本当に実用的な会話が始まるのだろうか?

もちろん、次の選挙がどうなるかは誰にもわからない。現大統領は我々の民主主義を脅かす存在だと思う。彼は単純にあらゆる改革を難しくさせるんだ。彼の政権下であと4年間、民主主義が持ちこたえられるのか分からないよ。実際に我々の民主主義とアメリカ的生活様式の存続が脅威にさらされているんだ。

この全てを見れば悲観的になるかもしれないが、これらの状況においてもポジティブな面はある。ワクチン開発に希望を持っているし、 ホワイトハウスに向かう50フィートの道にBlack Lives Matterのスローガンが描かれたのは良い兆候だ。抗議デモは白人と黒人と有色人種(注:"brown people"と言っている → ヒスパニック系のこと)が愛の名のもとに集まっている。良い兆候だ。

さらに、大統領の支持率は地下室を突っ走っているように見える。これは良い兆候だね。あのラファイエット・スクエアの抗議デモで、大統領はついに転換点に達してしまったのかもしれないと思っているんだ。とんでもなく反アメリカ的で、完全に道化のようで、愚かで、言論の自由に反するスピーチだった。映像は永久に残るだろう。

次の選挙に向けて楽観的な気持ちになっているよ。俺の中で一番希望をもたらしてくれるのは、通りにいる子供達だ。そして、抗議デモが世界中で行われているという事実だね。最終的には、警察による暴力やジョージ・フロイドの安らかな眠りを超えたムーブメントになると思っている。

ブルックス:いくつか大きな話題について話しましょう。これらの出来事は人種間の不公平、分断、不平等を明らかにするものでした。あなたは長い間、このことについて歌ってきましたね。「My Hometown」で、あなたが通った高校で起きた人種間の緊張について歌ったのを覚えています。我々は全体的にどうなっていると思いますか?進歩していると思いますか?

スプリングスティーン:この数週間の過酷な出来事を見て、弾圧や警察による暴力の記録を見るなら、我々は非常に悪い方向に進んでいると言えるだろう。とても悲観的になるかもしれない。しかし、その一方で、俺は面白い経験をした。大統領が全員白人のインチキ部隊と聖ヨハネ教会へ行進し、聖書を持ってポーズをとるのを見た時は現実のようには見えなかった。あれは現代のアメリカではない。黒人達を見えなくしておく、ああいう文化はもう去ったんだよ。

現代において、黒人達の姿が見えないなら、それは受け入れ難いことだ。このことは進歩の兆候だと思う。下院の民主党側が有色人種(ヒスパニック系や黒人)、ストレートやゲイの人達で埋め尽くされているのを目にしてから、今この瞬間の歴史によって変化していないような共和党に目を向けてみよう。彼らは滑稽に見える。現在彼らには権力があるが、衰退している党に見える。

俺が20歳だった半世紀前、もしくは18歳だった1968年のように長い物語として見れば、公民権運動、選挙権法、オバマ大統領の就任など、大きな進歩があったと言えるだろう。もちろん、進歩があったとしても、反動的な要素によって常に揺り戻しがある。しかし、その揺り戻しは過去のどんな時期よりも今の方が小さく、減少していると感じている。(反動的な要素は)歴史から取り残され、地位を失っていると考える人々だったり、共和党や国家のパワーバランスを一箇所に維持しようとする社会の力だったりするが、それが不可能になりつつある。

だから、多くの改善があったと言いたいが、明らかにまだ道のりは長い。古典的なマーティン・ルーサー・キングの言葉がある。「道徳的な世界の弧は長く伸びているが、それは正義に向かって曲がっている(注:道徳的な戦いは容易ではなく道のりは長いが、正義を目的にしているので最終的には勝つ、という意味)俺は今でもその言葉を信じている。しかし、その道のりには非常に多くのジグザグ道がある。今の時代に対して(進歩が)遅すぎると感じている。

しかし、今我々はいきすぎた警察の行いについて国民的な議論をしている。辛いこともあるだろうが、良い影響をもたらすと思う。ビデオ時代に警察の悪事 、暴力や殺人は無視も隠蔽もできない。大統領は今週の業務報告書のために、ジョージ・フロイドが天から微笑んでいるかのように何も起きてないふりをすることはできる。しかし、アメリカの国民は、そして俺は全世界の人々だと信じているが、現状は良くないということがわかっている。それは進歩だ。今は多少の混沌とした状況だが、やがて物事は良くなり、正しい方向へ向かっていくと感じている。

ブルックス:私たちはここで会話だけをするつもりはありません。この瞬間を豊かにし、何が起こっているのかをより深く理解してもらうために、あなたが曲を選んでくれました。最初に選んだ曲はビリー・ホリデイの「Strange Fruit(奇妙な果実)」ですね。

スプリングスティーン :1937年にエイベル・ミーアポル(注:ニューヨーク市ブロンクス地区のユダヤ人牧師)が書いた曲だ。想像してみてくれ。南部のリンチについての曲「Strange Fruit」を書いて、1939年にビリー・ホリデイのような人気歌手が歌っていたことを。これは非常に物議を醸すレコーディングだった。彼女のレーベルであるコロンビアはリリースすることを望んでいなかったから、彼女は別のレーベルからリリースしたんだ。

時代の先を行く壮大な曲だ。今もなお、現代の会話の中で、深く、深く、深く人々の心を打つ。




ブルックス:アメリカについて、アメリカの意味について話しましょう。あなたが以前インタビューで語っていたのを聞いたことがありますが、ウディ・ガスリーはアーヴィング・バーリンの 「God Bless America 」に対して「This Land Is Your Land」を書いたと言っていましたね。ソングライターがいかに常にアメリカとは何か、という長い会話をしてきたかを示しています。今、我々はある種危機的な状況にあります。アメリカの国の物語には、全ての人が含まれているわけではありません。アメリカやアメリカの物語の意味についてどう考えていますか?

スプリングスティーン:俺が活動を始めたとき、自分をアメリカのアーティストであり、平均的なアメリカ人であると自意識過剰に考えていた。自分には才能があるから、自分が関心を持っていることや自分が育った場所、一緒に育った人達について語れる言葉を紡げると思っていた。それを政治的な見解と呼ぶかどうかは分からないけど、俺はとても若い頃にそういう見解を持っていたし、ポピュラー・ミュージックとは、より大きな自由に向かうムーブメントだと常に思っていた。偉大な音楽はより大きな自由をもたらすと...

アメリカの物語を完全に伝えてくれるような音楽は二度と出てこないと思うんだ。今のカルチャーはあまりにも分裂し過ぎている。でも、今の発言が真実ではないかのように進むのが、アーティストの務めだと思うんだ。モノカルチャー(単一文化)の瞬間を持てるかのように、そして深い意味があり、刺激的で、国民全体に届く、文化を変えられるような曲を書けるかのように、レコーディングできるかのように進むこと。その衝動で突き進むんだよ。

でも、これからアメリカの音楽はラップやポップ、ラテン音楽などが混沌と鳴り響くようになっていくと思う。SiriusXM(注:デジタルラジオ局)の番組では、そういった様々な歌をかけるようにしている。それが俺がやり続けてきたアメリカの物語を伝えるための、唯一の方法だと思うから。

ブルックス:ポール・ロブスンのバージョンで 「The House I Live In 」を選んでいますが、これはもともと反ユダヤ主義に対抗するために書かれた曲ですが、ロブスンは新しい方法で歌っています。

スプリングスティーン:ロブスンのバージョンはとても、とても美しい。彼は面白い人だった。マッカーシー時代に(赤狩りの)ブラックリストに入っていた。反ファシストで、公民権運動の初期に参加し、スペイン内戦時には共和制を支援し、舞台や映画の俳優としても活躍した。部屋が揺れるような信じられないほどのバリトンの声を持っていた。これはエイベル・ミーアポルが書いた曲だ。彼がどんな人物だったかは正確には知らないが、当時のボブ・ディランだった。素晴らしい曲を書いていた。これはただ美しく力強い曲だ。




ブルックス:社会変化について話しましょう。数十年ごとに、我々は激動の変化の瞬間を迎えているように思います。あなたが先程言ったように、あなたが18歳だった1968年に、我々はそのような瞬間を迎えました。そして多くの人々は、今度もまたそういう瞬間のものであると考えています。1968年と比べてどう感じますか?

スプリングスティーン:似たようなものだね。数週間前、SpaceXのロケットが打ち上がり、街が湧き立っていた時にそう感じたんだ(注:米国時間 5月30日15:23 イーロン・マスクが創業したSpaceX社が民間企業初の有人宇宙船打ち上げに成功)。1968年がフラッシュバックしたよ。

でも、オバマ大統領が最近のスピーチで言っていたように、大きな違いがあると思う。1968年には抑えきれないほどの怒りがあったが、今回はそれと同じ程ではない。暴力のレベルは、先週と同じように(今週も)悪かったが、68年に比べて明らかに少なくなっている。デモ参加者はより若く、はるかに多様性がある。

1968年には白人と黒人が一緒にニューアークやアズベリーパークを燃やしたりしなかった。それは起きなかった。激しい怒りと「もうたくさんだ」という気持ちは似ている。しかし、全体的に見ると、時代ごとに抗議運動は異なる思う。68年には暗殺があり、ベトナム、ラオス、カンボジアで戦争があった。公民権運動の台頭に対抗して「南部戦略」の台頭があったが、これらはすべてニクソンの弾劾につながった。共和党が根性無しでなければ、実際にここでも(トランプに対して弾劾が)起こるべきだったのだが。

ブルックス:次の曲に行きましょう。Jay-Zとカニエ・ウエストの「Made in America」です。彼らのアルバム『Watch the Throne』からの曲です。

スプリングスティーン:この曲は大好きだよ。とてもソウルフルで美しい曲だ。




ブルックス:あなたは何十曲も曲を書いてきましたが、私が推測するに、このレッテル(分類)が快適であるならですが、プロテストソングと呼べるんじゃないでしょうか。社会悪や過ちについて歌っています。 The Ghost of Tom Joad(トム・ジョードの亡霊)や他にも沢山の曲があります。あなたの最も予知的な曲は 「American Skin」ですね。「41 Shots」として知られている曲ですが。 その曲の何が興味深いかというと、またあなたがどのように政治的な曲を書くのか関心があるのですが、この曲はアフリカ系アメリカ人の若い男性が警官に撃たれたことに対する政治的なメッセージを持っているということです。

しかし、この曲には様々な視点からのメッセージが込められています。黒人の母親が息子に安全を守る方法を話しています。警官の視点もあります。どうやってアートの曖昧さを保ちつつ、明確な政治的主張をするのですか?

スプリングスティーン:そうだな。俺は自分の曲をプロテストソングと思ったことは一度もない。いつも、社会的な意味合いを持つ複雑なキャラクターを書こうとしてきた。創造的で立体的な命を吹き込める複雑なキャラクターを作らなければならない、と思っているから。そうすることで、その中に真実を見出すことができるんだ。

「American Skin」は、アトランタとニューヨークに行く途中で思いついた。ツアーの最後の2公演だったんだけど、何か新しいものを書きたかったんだ。アトランタで演奏したんだけど、披露するには最高の場所だったね。でも、ニューヨークに着いて演奏する頃には、この曲はマスコミで爆発的に話題になっていた。一部の警察組合との間で物議を醸したんだ。理解して欲しいんだけど、この曲はまだ誰も聞いたことがなかったのに大騒ぎになった。この曲に対して強い意見を持っていた多くの人達は、単にその曲を聞いたことがなかっただけなんだ。聞いたとしても、本当には聞いていなかった。アマドゥ・ディアロの銃撃事件をバランスよく描いた曲だったんだよ。

*アマドゥ・ディアロ事件... ニューヨーク市に住んでいた23歳のギニア人移民。1999年2月4日にニューヨーク市警察に勤める4人の白人警官から、合計で41発の銃弾を受けて射殺された。4人の警官は解雇され起訴されたが、全員が裁判で無罪となった。

この曲は俺が最も誇りに思う曲の一つだ。マディソン・スクエア・ガーデンで(ライブの際に)行ったディアロの追悼には、ディアロの家族も来ていた。この曲を演奏した時には乱闘もあった。警察官のグループにニュージャージーの州鳥(注:オウゴンヒワ)を見せられたけど、大丈夫だったよ。ブーイングもあったし、声援もあった。その日の終わりには、セットリストの一部になっただけだった。

この曲は、人種問題の中心にあるのは"恐れ"だという考えから書いたものだ。憎しみは後から来る。恐れは瞬間的なものだ。だから、「American Skin」では母親が息子を思う恐れと、息子の安全のために言って聞かせるルールに皆が心を動かされると思う。 幼い子供がこのような教育を受けるのを見るのは、単純に心が痛む。そして警官は彼自身、恐怖の世界で生きている。家には家族がいて期待や要求がある。彼らは両方とも、何世紀にもわたって続いた人種問題に対する決断力不足による駒として生きていた。 年を追うごとに請求書が届く。この問題に対処しなかった年には請求書の支払い期限が来て、その支払いには血と涙が伴う。我々の血と涙がね。

そういう賭け金(代償)について曲を書いてきたと思っているし、今でも最も誇りに思う曲の一つだ。いい曲だよ。長く聴かれているし、しっかりと働いてくれてる。




ブルックス:ずっと聞きたいと思っていた質問があります。あなたは生涯をかけて労働者階級(注:ブルーカラー)の男性について曲を書いてきました。特に閉鎖された工場や製粉所で働いていた、脱工業化の犠牲者である労働者階級の男性達についてです。しかし彼らの多くはあなたの政治的見解に共感することはありませんでした。彼らはドナルド・トランプの支持者になった。そのことについてあなたはどう説明されますか?

* ご参考:ジョージ・フロイドが亡くなったミネアポリスは、かつて小麦製粉業の街として栄えた。別名Mill City(製粉の街), City of Lakes(湖の街)。

スプリングスティーン:まず、労働者達が扇動政治家や大統領、偽宗教指導者に惑わされてきた長い歴史がある。

民主党は中産階級と労働者階級の保護を十分に優先させてこなかった。民主党は共和党によって、より多くの変化をもたらすことを妨げられてきた。ルーズベルト大統領の時代には共和党は企業を代表し、民主党は労働者を代表していた。子供の頃、唯一家の中で政治的な質問をしたのは「ママ、僕らは民主党と共和党、どっちの支持者?」 母は「私たちは民主党支持者よ。労働者のための党だから。」と答えたよ(母は認知があるうちに共和党支持者になったのではないかと密かに疑っているんだが、そのことについては何も言わなかった!)。

加えて、雷のようなスピードで進んだ「脱工業化と技術の進歩」に対する被害者意識がある。膨大な数の労働者達にとって、信じられないほどトラウマになっているんだ。隅に追いやられ、歴史に置き去りにされているという意識を現大統領は利用しているね。

エリートや専門職従事者、沿岸部に住むコスモポリタンな人々への憤りがあるが、そう思うのもある程度無理はない。憤りは、多くの労働者達がこの国のために生んできた価値と払ってきた犠牲を軽視している一部の人々の態度にある。戦争になると労働者達がそこへ行く。汚くきつい仕事があると労働者達がそこへ行くんだよ。

現大統領は純粋に自分の政治的利益のために、皮肉っぽく根源的な憤りを利用し、愛国心を煽っている。充実した工場施設、高い賃金、白人であることの社会的地位へ再び時間を戻してくれる人物を望む声がある。大統領は労働者階級のために海外から工場や仕事を戻すことを上手くやり遂げられなかった。彼が唯一実現させたのは、憎しみと分断、そして国民を互いの喉元に追いやるだけだった。彼はそれを遂行し、成功させたんだ。

ブルックス:「エド・サリバン・ショー」でエルビスとビートルズを見て育った子供が、自然に政治的になったわけではないと。あなたの人生で政治的な部分に影響を与えたものは何ですか?

スプリングスティーン:1975年にアルバムBorn to Run(明日なき暴走)をリリースしてパーソナル・ライセンスを持てる立場になった時に、本能から湧き出てきたんだ。何かがしっくりこなかった。やり遂げた感じがしなかった。自分の家にいるような気がしなかった。信じられないほど居心地が悪かったんだ。

マスターベーションがセックスにつながるように、パーソナル・ライセンスが本当の自由につながると気づくまでに長い時間がかかったよ。なかなかいいもんだけど、本物じゃない。そして次のレコード Darkness on the Edge of Town(闇に吠える街)に取り掛かる時に、車をUターンさせたいと言ったんだ。自分が育った地域に戻り、俺が書いてきた共に育った人々を圧迫している構造的な問題、個人的な問題、社会的な問題を理解したいと思った。俺が探しているものはそこにあるんだと。だから、自分自身の道徳的、精神的、感情的な健康や隣人達の健康への心配から、その場所で俺の政治問題が本当の意味で発展し始めたと言えるね。

* 『Born to Run』をリリースした翌1976年、プロデューサーの関与や曲の著作権を巡りマネージャーから訴訟を起こされ法廷闘争に発展した。1977年に和解したが、レコーディング活動を2年間休止せざるを得なかった。

ブルックス:次の曲はトランプのプロテスト・ソングのようですね。ジョー・グルシュキーの「That's What Makes Us Great」です。

スプリングスティーン:ジョーが俺に言ったんだ。「うわ、この曲書いちゃったよ。「That's What Makes Us Great」って曲」

ちょうどMAGAムーブメント(注:Make America Great Againムーブメント)の時期だったんだ。俺は「なるほど、素晴らしい(great )曲名じゃないか」 と言ったよ。すると「一緒に歌わないか?」と言ってきたから、一緒に歌ったんだ。




ブルックス:先程『Darkness on the Edge of Town』を作ったときに、自分のルーツに戻らなければならなかったと言っていましたが、当時ニューズウィーク誌やタイム誌の表紙を飾っていましたね。それであなたのキャリアは吹き飛んでしまった。もっとビッグに、世界的(グローバル)なスターになることもできたはずなのに、家に、地元(ローカル)に戻った。そして今もそこにいる。アズベリーパーク近郊に住んでいる。

スプリングスティーン:そうだね、アズベリーから20分、フリーホールドから10分離れたニュージャージーにまだいるよ。

だから、今でもここでとても快適だよ。

ブルックス:町の様子はどうですか? それらの町で、アメリカでの経験がどのように広がったと思いますか?

スプリングスティーン:誰もが自分の中に道徳的、精神的、感情的な地理を持っているといつも感じている。バルセロナに住んでいても、アズベリー・パークに関わっていると感じることもあるだろうし、二度と行かないかもしれない土地に関わっていると感じることもあるだろう。でも、もしあるソングライターが巧みで、人間の状態について書くなら、聴いている人達をその場所へ連れて行くだろう。聴いている人達はそこへ着くだろう。海外に最高のオーディエンスがいるんだが、今では俺達のオーディエンスの2/3かそれ以上はヨーロッパの人達で、人々は今でもアメリカに魅了されていて、アメリカで起こっていることや、アメリカの神話に深く関心を抱いている。アメリカの物語は世界的な物語であり、大きな力を持ち続けているんだよ。

ブルックス:最後の質問です。ブロードウェイのショーをやった時に、「The Lord's Prayer(主の祈り)」の非常に直接的で、あからさまなバージョンで締めくくって、多くの人を驚かせましたね。そのおかげで、私はあなたの音楽に戻り、古い曲を新しい方法で聴くことができるようになりました。「Mary's Place」というパーティーソングがありますね。しかし、信仰のプリズムを通して見ると、これまでに書かれた中で最もハッピーな聖母マリアへの賛歌です。あなたがそんな風に書いたのかどうかは分かりませんが。で、お聞きしたいのですが、あなたは今、どのようにこの世の聖性と聖なる存在を経験していますか?

スプリングスティーン:「Mary's Place」はコミュニティーや友愛、精神的な支えがある場所へ行くことを歌っているんだ。根底にそういうことを歌っていて、ほとんどの俺の曲は「The Promised Land(約束の地)」「Badlands(バッドランド)」のことなんだが、残りはこの世界で自分の精神的、道徳的、社会的な道を見つけようとしている人々のことを歌っているんだ。 そして、そういう人々は家を建てられる場所、そういう価値観を支えてくれる場所を見つけようとしている。

* 「The Promised Land」「Badlands」→  アルバム『Darkness on the Edge of Town』収録曲

俺は多くの儀式には従わないものの、植え付けや習慣からだと思うんだがカトリック教会には親近感を持っている。俺の懸念をよそに、子供達は洗礼を受けていない。俺は異教徒の赤ちゃんを授かり、子供達は精神的にうまくやっているように見える。俺の子供達は良い、揺ぎのない魂を持っているよ!

しかし、俺は曲の中で非常に定期的に、自分が受けたカトリック教育を引き合いに出している。俺には聖書のイメージがたくさんあるし、一日の終わりにもし誰かが俺にどんなソングライターか聞いたら、政治的なソングライターだとは答えないだろう。おそらくスピリチュアルなソングライターだと答えるだろうね。俺の作品群を見てもらえばわかるんだが、俺が扱っているテーマはそれ(スピリチャル)だと本気で思ってるんだ。俺は社会問題に取り組んできた。この地球上の現実の問題を扱ってきた。俺の曲のヴァースはブルースで、コーラスはゴスペルだといつも言っている。ブルースよりも少しゴスペルに傾いているかな。だから究極的には、自分をスピリチュアル・ソングライターだとカテゴライズしているんだ。

* スピリチュアリティ... 英語では その人独自の「精神性」ではなく、神との関係によって成立する「霊性」というニュアンスを含んでいる。聖書を起源としており、神との結びつきの中でとらえられるべき言葉(はじめてのアメリカ音楽史より)。

* ブルースはカトリック教徒として育てられた。

ブルックス:最後にあなたの友人による一杯のカフェインで締めくくりましょう。パティ・スミスの「People Have the Power」です。

スプリングスティーン:これは純粋に素晴らしい、素晴らしいアンセムだ。自分が書きたかった曲のひとつだけど、彼女が書いてくれて本当に良かったと思ってるよ。今、この曲ほど相応しい曲はないと思う。




(補足情報)

My Hometown Born in the U.S.A.収録曲)

Bruce Springsteen - My Hometown (Lyrics)


(歌詞一部)
 65年、俺の高校でも緊張は高まった
 黒人と白人との間で多くの喧嘩があった
 どうすることもできなかった
 土曜の夜、信号で2台の車が止まり
 バックシートには銃があった
 ショットガンが火を吹く中で
 言葉が通り過ぎた
 困難な時代が来た
 俺のホームタウンに
 俺のホームタウン



 * Springsteen on Broadwayバージョントレイシー・チャップマンとの共演映像(2004)などもあります。良いです。


「Strange Fruit(奇妙な果実)」

Billie Holiday - Strange Fruit



(参照)

ロックの英詞を読む―― 世界を変える歌
ピーター・バラカン
集英社インターナショナル
2016-05-26



(一部引用)
これは「南部では昔、黒人をリンチしたときの写真を載せた絵はがきが売られていた」というアメリカではよく知られていた事実について歌った物です。
ビリー・ホリデイの「Strange Fruit」は、その差別をより直截的に表現しています。39年に発表されて以来、彼女が歌う「飛びだした目、歪んだ口」「縄につるされて皮膚が焼けこげる匂い」という歌詞は、聞き手を驚愕させ続けて来ました。

 南部の木に、奇妙な実がなっている
 葉っぱにも根っこにも血がにじむ
 黒い身体が南部の風に揺れる
 奇妙な果実がポプラの木から吊るされている

 勇敢な南部の牧歌的な光景
 飛び出した目、歪んだ口
 マグノリア(木蓮)の甘く新鮮な香りがしたかと思うと
 急うに焼け焦げた肉の匂いがする

   *a strange fruit(奇妙な実)... リンチを受けたあとの死体のこと

『風と共に去りぬ』のような牧歌的な光景の描写のすぐあとに、死んだ人間の陰惨な状態という非常に対照的な描写が続きます。

(中略)
30年代の終わり頃、ビリー・ホリデイがニューヨークのダウンタウンにあるリベラルな人が集うカフェ・ソサエティで初めてこの曲を歌ったとき、白人中心だったカフェの客層はみんなご飯を食べたりお酒を飲んだり、リラックスして音楽を聴いているところでしたが、ビリーがアンコールでこの曲を歌い始めると、シーンと静まりかえって飲食の音も止まったそうです。
歌い終わったあとは、しばらく拍手もありません。本人は「失敗したかなぁ」と思うくらいだったそうですが、しばらくして「わー」と大きな歓声と拍手が湧きあがります。この曲はあっという間に話題になり、これを聞くために毎日カフェに通う人も出てくるという、ちょっとした現象のようなものにまで発展したと伝えられています。

  奇妙な果実 Wikipedia


エイベル・ミーアポル (上記Wikipediaより一部引用)

「奇妙な果実」はニューヨークブロンクス地区のユダヤ人教師エイベル・ミーアポルによって作詞・作曲された。1930年8月、彼は新聞で二人の黒人が吊るされて死んでいる場面の写真を見て衝撃を受け、これを題材として一編の詩「苦い果実(Bitter Fruit)」を書き、「ルイス・アレン」のペンネームで共産党系の機関紙などに発表した。ミーアポルはアメリカ共産党員であり、フランク・シナトラヒット曲を生みだすなど作詞・作曲家ルイス・アレンとして活躍する一方で、ソ連スパイで死刑になったローゼンバーグ夫妻の遺児を養子として引き取るなど、社会活動も行った。のちに自身も作曲や共産党や教職者組合の集会で彼の妻が唄うようになったことで徐々に知られるようになった。

 * ビリー・ホリデイは、個人的にはGod Bless the Childが好きです♪


「American Skin(41 Shots)」 High Hopes』収録曲

Bruce Springsteen - American Skin (41 Shots)   (Lyrics)



(歌詞一部)
 41発の銃弾、我々は渡るだろう
 血に塗れた川を渡って  向こう岸まで
 41発の銃弾、夜を貫く
 玄関で   彼の体の上に膝まづき
 彼の人生のために祈る

 銃なのか、ナイフなのか
 財布なのか、いや、君の命だったんだ
 隠し持っていたわけじゃない、隠す物などなかったんだ  
 隠すものなどない、友よ
 アメリカ人の皮膚で生きているだけで  殺されるんだ

 41発の銃弾、レナは息子に  学校へ行く準備をさせている
 彼女は言う「チャールズ、外ではルールを守らないといけないよ
 お巡りさんに止められたら、礼儀正しくすると約束して
 絶対に逃げちゃいけないよ
 両手を隠さないようにするとママに約束して」

 銃なのか、ナイフなのか
 財布なのか、いや 君の命なんだ
 隠し持っていたわけじゃない、隠す物などなかったんだ....


  * アマドゥ・ディアロ事件では、ポケットに手を突っ込んだため撃たれたが、ポケットには財布しか入っていなかった

 「ブルース・スプリングスティーン、"American Skin"を語る」〜 Barks  2001.04.05

 (一部引用)
「この曲は、人種差別をダイレクトに扱っている。アメリカで多くの場合、問題となるのはそのテーマなんだ。とても重たいものだけど、今のところ宙ぶらりんのまま解決されていない...。合衆国の有色人種は犯罪者というベールを通して見られ、完全な市民権を得ているアメリカ国民なのに、それが否定されてしまう。これは21世紀のアメリカが抱える大きな問題のひとつだ」

  マディソン・スクエア・ガーデンでのライブ映像(2000) 
 Eストリートバンドと一緒です。もちろん故クラレンス・クレモンズも🎷



デジタルラジオ SiriusXM の番組 「E Street Radio」  Volume 5: American Skin より

8分間 ...



ブルース・スプリングスティーンとクラレンス・クレモンズ 〜 永遠のミッシング・リンク」〜 Tap the Pop  2020.06.18
 
 「ビッグ・マンがバンドに加わって、転機が訪れた」
  1970年代には、黒人メンバーが白人のリーダーと対等に絡むロック・バンドはあり得なかった。



「アメリカの物語を伝え続ける」
ボスのこの言葉に、アメリカの作家ポール・オースターの「ナショナル・ストーリー・プロジェクト」を思い出しました。公共ラジオ放送 NPR の番組でポール・オースターが全米中から実話を投稿してもらい、心揺さぶられるストーリーを朗読した企画。精選し書籍化したものがこちら👇




原書   * 試し読みできます




ポール・ロブスン  Wikipedia
     確かに面白い経歴の人物ですね


カニエ・ウエスト & Jay-Z 『Watch the Throne』

  ボスがヒップホップを選曲するとは! 

 アルバム・レビュー
Watch The Throne [Explicit]
Roc Nation / Jay-Z
2011-08-12



エド・サリバン・ショー  
 YouTubeにアーカイブチャンネルができました。


『Darkness on the Edge of Town(闇に吠える街)』 名盤✨


「That's What Makes Us Great」

Joe Grushecky and Bruce Springsteen - That's What Makes Us Great




「Springsteen on Broadway」
 世界的ベストセラーとなった『Born to Run ブルース・スプリングスティーン自伝』を元に制作されたショー「Springsteen on Broadway」はブロードウェイのウォルター・カー劇場で236回にわたって行われ、全公演が発売即ソールドアウトとなり、大成功をおさめた。第72回トニー賞では「特別賞」を受賞(Sony Music サイトより)。

 

Netflix配信の予告編








パティ・スミス「People Have The Power」

Patti Smith - People Have The Power




・参照「ブルース・スプリングスティーンと彼のアメリカ」




(一部引用)
僕が(ブルースに)心を惹かれたのは、そこにある「物語の共振性」のようなものだった。ロックンロール・ミュージックが、これほどストーリー性のある深い内容の歌詞を与えれたことが、その歴史の中で一度でもあっただろうか。

(レイモンド・カーヴァーの小説に触れて)そこに共通しているのは、アメリカのブルーカラー階級(ワーキング・クラス)の抱えた閉塞感であり、それによって社会全体にもたらされた「bleakness = 荒ぶれた心」である。ワーキング・クラスの人々はおおむね無口であり、スポークスマンを持たない。饒舌は彼らの好むところではない。それが長い歳月にわたって彼らのとってきた生き方なのだ。彼らはただ黙々と働き、黙々と生きてきた。そして長い歳月にわたってアメリカ経済の屋台骨を支え続けてきたのだ。ブルース・スプリングスティーンが物語として歌い上げたのは、そのようなアメリカのワーキング・クラスの生活であり、心情であり、夢であり、絶望なのだ。80年代をとおして、アメリカのワーキング・クラスのための数少ない貴重なスポークスマンとなった。

「俺はアメリカに生まれたんだ」と叫ぶ時、そこにはいうまでもなく怒りがあり、懐疑があり、哀しみがある。俺が生まれたアメリカはこんな国じゃなかったはずだ、こんな国であるべきではないのだ、という痛切な思いが彼の中にはある。

(アズベリーパークを訪れた時の春樹さんの印象)
どのように好意的に見ても、恐ろしくしけた海岸である。不気味といってもいいくらいだ。すべての建物は古びて、色あせて、荒廃している。人影はほとんどない。かつては発展したブルーカラーのためのリゾート地は零落し、観光客は途絶え、ホテルは廃業し、犯罪とドラッグがそのあとに居座っていた。はかない真昼のゴーストタウン。

Bruce Springsteen - Born in the USA  アコースティック・バージョン
アズベリーパークのさびれた風景


 Born in the USA」日本語歌詞ビデオ



(オマケ)
ブルース・スプリングスティーンの息子、米ニュージャージー州の消防士に」〜 Barks  2020.01.15

 子供達は立派に育っているようです。誠実に生きてきたお父さんの背中を見てるもんね😊

ニュージャージー市庁舎での消防士就任式にて
市民の命を守る仕事に就くヤング・スプリングスティーン。ローカル・マン👍