本日よりラファエル・サディークの大傑作アルバム(勝手に決定)『Jimmy Lee』より何曲か歌詞をご紹介します。センスの良い、ダンサブルなサウンドからは思いもつかないほど、歌詞は薬物依存者の視点に立った、暗く現実的な内容となっています。こんな表現の仕方もあるのですね。驚きました。

Something Keeps Calling (feat. Rob Bacon) 







Something keeps calling me
I feel the burdens on me
Something keeps calling me
This is so heavy for me

何かが俺を呼び続けてる
重荷を感じる
何かが俺を呼び続けてる
とてもしんどいんだ

You might say I can never love again
Well, you might be right, at least tonight
My friends say I can never pull it together
Well, they might be right, at least tonight

二度と人を愛せないだろう  と皆は言うかもしれない
そう、正しいかもね 少なくとも今夜は
友達は言う  立ち直れないだろうって
そう、正しいかもね 少なくとも今夜は

My kids say I'll never come home again
And I know they're right, at least tonight
If I fail, my whole life goes to hell
And it don't seem right, I need help tonight

子供たちは  俺が二度と家に戻らないんじゃないかって言う
正しいね  少なくとも今夜は
しくじったら  俺の人生は地獄へ真っ逆さまさ
それが正しいこととは思えない、今夜は助けが必要なんだ

Something keeps calling me
I feel the burdens on me
Something keeps calling me
This is so heavy for me

何かが俺を呼び続けてる
重荷を感じるよ
何かが俺を呼び続けてる
とてもキツい

My wife says I'll never have money again
And she might be right, I lost tonight
My heart says I can get it all again
And I hope I'm right, but not tonight

妻は言う 俺が一文無しになるんじゃないかって
多分彼女は正しいね、今夜有り金をはたいちまった
俺の心は言う  また金を得ることはできるだろうって
それが正しいことを願うよ  でも今夜は違う

The priest said, "You're gonna lose family"
And he might be right, at least tonight
My mind says, "You should give it up today"
Sounds awesome, right? But not tonight

神父は言った「家族を失うぞ」と
多分正しいんだろう 少なくとも今夜は
心は言う 「今日こそは諦めろ」って
ヤバいだろう? でも今夜は違う

Something keeps calling me
I feel the burdens on me
Something keeps calling me
This is so heavy for me

何かが俺を呼び続けてる
重荷を感じるよ
何かが俺を呼び続けてる
とてもしんどいんだ

Something keeps calling me
I feel the burdens on me
Something keeps calling me
This is so heavy for me

何かが俺を呼び続けてる
重荷を感じるよ
何かが俺を呼び続けてる
とても苦しいんだ

This is forever (This is so heavy on me)
I'm never ever turning back (This is so heavy on me)
I'm never (This is so heavy on me)
So heavy on me
I'm never

これは永遠に続く(とても苦痛なんだ)
もう二度と引き返せない(とても苦痛なんだ)
決して(とても苦痛なんだ)
とてもしんどいんだ
もう二度と


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(訳注)
I feel the burdens on me. This is so heavy for me.
    burden... (精神的な)重荷、負担、責任。心配、苦しみ
    heavy.... ずっしりと重い、苦痛、しんどい
ここでは、歳とともに背負うものがどんどん増えていって、この重圧にもう耐えられない、しんどい、(精神的に)キツい、苦しい... と押しつぶされそうになっている感じでしょうか

   

(注意)

・歌詞の和訳は私が意訳したものなので、間違った解釈、誤訳などがある可能性もあります。ご了承ください。
・和訳は趣味で引用しており、歌詞の配布を目的としておりません。訳詞の転載はご遠慮ください。



(参考記事)
・「ラファエル・サディーク 新作リリース インタビュー
 〜 Billboard Japan  8月23日
・「Raphael Saadiq Finally Put His Past on the Record
 〜  The New York Times  Aug. 15, 2019

<アルバム『Jimmy Lee』のテーマ>  *上記記事のサマリ&引用
アルバム名の『Jimmy Lee』は、HIVに感染して、1990年代に薬物の過剰摂取で亡くなったラファエル・サディークの兄、Jimmy Lee Baker(ジミー・リー・ベイカー)の名前から来ている。厳密に言うとラファエルには薬物依存症が原因で亡くなった兄弟が3人おり、アルバム名を"ジミー・リー"としたのは、誰の人生にも"ジミー・リー" = "依存が原因で亡くなった存在"がいて、その象徴が "ジミー・リー"だから。全ての人達の人生に"ジミー・リー"がいて、そして全ての人達自身もまた"ジミー・リー"である。つまり、全ての人達が "何かしらに依存している" ということがテーマとなっている。

ラファエル:最も伝えたかったのは、誰かがドラッグ依存症だって聞いただけですぐにネガティブなイメージだけで捉えてはいけないということ。ドラッグに依存していない人間にとってはネガティブなことかもしれない。でも、依存してしまっている人達は、何かしら悩みを抱えて、<賭け>に出てしまっただけ。悪い人間なんかじゃない。依存症=悪い人間じゃない、ということ。

New York Times紙のインタビュー記事では、ジミー・リーの物語を借りて、より広義に"プレッシャー(重圧)にさらされている人々の生活" を伝えたかったと書かれています。当初はコンセプト・アルバムを制作する気はなく、ましてや個人的なことを掘り下げる気はなかったものの、今年初めにスタジオで作業をしていると2、3晩にわたって幽霊(= 兄)が話す声が聞こえて、それがきっかけとなったようです。

「自分がこれまで作った中でもっとも正直なアルバムになったと思う」と。


ミュージックビデオを観ると、ジミー・リーと思われる薬物・アルコール依存のお兄さんに寄り添うようにして側にいるラファエルの姿が印象的です。やれやれと思いながらも、眼差しが温かい。依存者の描写もしっかりしていますね。内容がヘビーなだけに、ややファンタジー仕立ての映像になっています。幽霊の描写もしている?

歌詞は依存者の視点で書かれています。
「何かが俺を呼び続けている」とは依存している物(ここではドラッグ)が誘惑する声でしょうか。こっちに来いよ、ラクになれるよって。本人は重圧や苦しみから逃れるために今晩だけでもラクになりたい、ドラッグや酒が欲しいと葛藤している様子ですが、依存症とはその繰り返しで、そこから底なし沼にハマっていくのでしょうね。


2年前にミネアポリスを旅した時、路面電車や通りで多くのブラックの人達を見かけましたが、特に中高年の方達は疲れた顔をしており、あぁ、生活厳しいんだな、大変なんだな、と印象に残ったことを思い出しました。感じの良い人が多く、目が合うと微笑みかけてくれたりしたのですが、その笑顔がどこか寂しげだった。ちょっと足を踏み入れた黒人住宅地ノース・ミネアポリスは犯罪多発地域で荒れているようだし、今も昔もブラック系の人々をとりまく環境は厳しいですね。

人種に関わらず、しんどい時や寂しい時、空虚さを感じる時に何かに依存したくなる気持ちはすごくわかります。程度の差こそあれ、誰にでもあるのではないでしょうか。一線を超えるかどうかの違いだけで。人間そんなに強くないですもの。


曲調はエレクトリック・シタールが使われていて、80年代っぽいテイストのサウンドですね。ラファエルのうっとりする高音ボイスに軽快なサウンド。薬物依存者の心情を歌う曲とは思いもしませんでした。重い内容を軽快なサウンドにのせて歌うのがトレンド(昔から?)かもしれません。